杉野学園衣裳博物館様

非破壊電子化

“そこ”にしかない学園の歴史を、より多くの人に ~日本初の衣装博物館は紙もデータも活用する~

1913年。まだ女性の社会進出が浸透する前のこの年、一人の若い女性が単身アメリカに渡りました。


杉野芳子は自分自身の生活体験の中から洋服の制作技術と欧米の服飾文化を身に付け、帰国後1926年にドレスメーカー・スクールを設立し、日本における服飾教育を開始しました。その目指すところは、日本における洋装の普及定着と服飾技術の修得による女性の自立でした。以後、デザイナーとして活躍し世界の一流デザイナー達と交流する一方、学園では自ら教壇に立つなどして学生の成長に尽力し、日本の洋装化に大きな影響を与えました。


杉野学園衣裳博物館は、そんな杉野芳子が学園の30周年を機に設立した日本初の衣装博物館です。
今回博物館収蔵の機関紙『杉野学園QUARTERLY No.77~96』の電子化について、ご依頼いただいた杉野学園衣裳博物館 学芸員 藤平アキ子様にお話を伺いました。

長年の目標だった日本初の『衣装博物館』

博物館が開館した経緯について教えていただけますか。

藤平様:杉野学園衣裳博物館は1957年に開館した日本初の衣装博物館で、杉野学園創立30周年の記念に開館しました。当時は学生が西洋の衣装を実際に見る機会がなかなか無く、杉野芳子は『西洋の衣装を実際に見て学んで欲しい』という想いをずっと持っており、博物館を作ることが学園にとって大事なことと考えていたようです。

杉野学園衣裳博物館様外観
博物館。杉野芳子が制作した衣装のほか、杉野芳子が蒐集した資料や学園の関連資料も展示されている。

収蔵資料の情報から杉野芳子の“日常生活”まで

今回電子化した資料について教えていただけますか。

藤平様:『杉野学園QUARTERLY』は1956年に創刊された機関紙で、学園に関する様々なことが掲載されています。博物館開館の経緯や収蔵資料について、杉野芳子の新作デザインショーの他、講習会やデザインコンテストを始めとした学園のイベント、杉野芳子の日常生活などです。発刊は1981年の96号を最後に終了しています。

杉野QUARTERLY
『杉野学園QUARTERLY』のバックナンバー(※今回電子化した冊子とは別)。現在は中性紙の保存箱で大切に保管されている。

それは貴重ですね。各バックナンバーは何冊残っているのですか?

藤平様:博物館にあるのはそれぞれ1,2冊ほどです。『保存用』として保管してきたものは無く、活用してきたため、破れた部分などがあったりと完璧な状態のものは多くありません。

紙故(ゆえ)に起こる弊害とは?

資料を電子化したきっかけは何でしたか?

藤平様:一番大きかったのは、紙の劣化が進んでいたことです。また、博物館では全ての号を所有していなかったので、電子化をすることで情報を共有できると考え、8年ほど前から徐々に電子化を始めました。それ以前は、知りたい情報を探すために、毎回原本をめくらなければなりませんでしたので、電子化することにより資料の劣化を防ぐと共に、とても探しやすくなりました

藤平様

資料を参照するのはどういったタイミングですか?

藤平様:博物館のことや収蔵資料のこと、学園のことなどを確認する時に見ています。
発刊当時の学園のイベントや博物館の様子については『杉野学園QUARTERLY』にしか載っていない情報もあります。
以前は、そもそも『杉野学園QUARTERLY』にどんなことが載っているのかという『内容の把握』が出来ていませんでしたので、中身を知り、活用する機会を増やしたかったというのも電子化の理由としてありました。

『裁断しない』ことが前提だった

今回電子化したのは77号~ですが、それ以前の号は既に電子化を?

藤平様:はい。以前は創刊号から順に別の業者にお願いしていました。ただ毎年予算内で何冊かずつだったのでなかなか進まず、別の所にお願いしようということになりまして、インターネットで新しいサービスを探すことにしました。

誠勝をお選びいただいた決め手は何でしょうか。

藤平様:保管している部数が1,2冊しか無いので裁断してスキャンすることは考えていませんでした。誠勝さんは非破壊スキャンでしたし、また実績も良かったので、色々他社と比較してお願いすることにしました。最初は資料を郵送するのが心配だったので、自分で誠勝さんまで資料を持ち込んで対応してもらいました

電子化したデータはどのように活用を?

藤平様:データ自体は博物館の者全員が見られるようにしていて、学園内でも共有しています。博物館の他に、杉野記念館でも今回スキャンしたデータをパネルに出力し、展示に活用しています。

データも紙も展示には必要

電子化してから、原本はどちらで保管されていますか?

藤平様:博物館で持っていたものについては、引き続き中性紙の保存箱に入れて保管しています。ただ電子化したら原本が要らなくなる訳ではなく、展示ではやはり『実物』を見せたいという思いがあるため、原本は原本で必要だと考えています。
実際に今回の展覧会でも原本はケースに入れて、誌面の必要な記事はデータを大きく出力してそれぞれ展示しています。

そのままスキャンでスキャンしたバックナンバーのパネル
展示されているそのままスキャンで電子化した『杉野学園QUARTERLY』のパネル写真。この他、取材時は創刊号の原本も展示されていた。

展示の為に電子化したい資料は他にもありますか?

藤平様:ニューデザイン夏季講習会のテキストがありますので、そちらも電子化したいと考えています。

ありがとうございました!

杉野学園衣裳博物館
住所: 東京都品川区上大崎4-6-19
入館料: 一般 300円
開館時間: 午前10時~午後4時
休館日: 日曜・祝日、大学の休業日
HP: http://www.costumemuseum.jp/

杉野学園衣裳博物館ロゴ
杉野学園衣裳博物館
創立
1957年
博物館について
収蔵資料は西洋衣装を中心に1400点 / 楮製紙製のマネキン30体を収蔵
HP
http://www.costumemuseum.jp/