株式会社電波新聞社様
2020年7月、SNS上で「ALL ABOUT namco ナムコゲームのすべて」(以下「ALL ABOUT namco」)の復刻版発行が発表。全国のゲームファンに大きな衝撃と喜びをもって迎えられました。
「ALL ABOUT namco」は1985年に発表された書籍で、アーケード/PCゲームのステージやキャラクター、果ては効果音の“楽譜”までナムコのゲームタイトルを事細かく解説した『ゲーム攻略本のパイオニア』とも言える一冊。一つひとつのゲーム場面を丁寧に掲載した緻密な情報は当時のゲームファンから熱い支持を受け、異例の累計30万部発行という大ヒットを記録。4年後には続編である「Ⅱ」も発行されました。
35年の時を経て2020年8月に復刻版が発行されると、初版はたちまち完売。誠勝ではこの「All ABOUT namco」の電子化・OCR処理を行わせていただきました。
「ALL ABOUT namco」編集当時のエピソード、復刻版を発行した理由、誠勝へご依頼いただいた経緯について、1985年の「All ABOUT namco」編集・発行に携わり、今回の復刻版発起人でもある株式会社電波新聞社 メディア事業本部 特別顧問の大橋 太郎様にお話いただきました。
ゲームファン達と一緒に作った書籍
まず「All ABOUT namco」について教えてください。
大橋様:「All ABOUT namco」は、当時の株式会社ナムコ(現:株式会社バンダイナムコエンターテインメント)さんが発表していたアーケードゲームやPCゲームについて徹底解説した書籍です。全ステージや全キャラクターはもちろん、いわゆる『敵キャラクターがやられた時の音』といった非常に細かい所まで画像や楽譜付きで紹介しています。
電波新聞社入社時、業界の先輩やライターの方から『役割は子供たちにエレクトロニクスの面白さ、楽しさを伝えることだ』と言われてきました。私はあと2年半ほどで入社50年になりますが、当初から一貫してそういう方針。専門誌がピラミッド式にどんどん難しくなるところ、その底辺、一番裾野が広い子供でも分かる本を沢山作るということを考え続けてきました。「All ABOUT namco」に関しては色々な所から電子書籍化のお話をいただきましたが、そういう理由からこの本は“紙”でなければいけないんですね。
非常に細かい情報が掲載されていますが、当時は大変だったのでは。
大橋様:今だったら、例えばキャラクターはイラストに起こせばデータにするのも簡単ですが、当時は16×16のドットで表す時代です。これは『どのドットでどの色を採用しているか』まで詳しく書きましたし、よく驚かれるのはゲームミュージックと効果音の楽譜ですね。今だったらデータから譜面化できますが、当時はいわゆる“耳コピ”で楽譜を起こし、ナムコさんのサウンド担当の方にお見せして、最終的には楽譜は提供していただきました。
実写画像は実際に筐体の画面を撮影したと伺っています。
大橋様:実際にゲーム筐体に組み込まれている基板を買って、社内外の人間で順番にプレイして撮影しました。
当時はブラウン管でしたから、普通に撮影すると画面がどうしても丸くなってしまうんです。何とか真四角の画面を撮る為に、部屋の明るさや画面との距離、シャッタースピード、小道具の使用まで試行錯誤を繰り返し、ノウハウを溜めてようやく掲載されている画像を再現することが出来ました。
大変だったのはステージ全体の画像ですね。スクロールするタイプのゲームでは、プレイ画面を私が撮影し一枚ずつ繋いで合成したものを掲載してますが、“隠れキャラ”が出ているシーンや最終ステージまで全部やろうとすると難しくて誰も進めないんですね(笑)。そういう時はゲームが上手い社外の方を連れてきて最終面までクリアしてもらった、というエピソードもあります。
ただ、次第にゲームの上手い方が別の優秀な知り合いを紹介してくれたり、自分から売り込みをしてくる方も現れるようになりまして。この一冊は、そういったゲームファンの力もお借りして作り上げたものなのです。発売後も初版、第2版、3版と版を重ねるごとに全国の読者様から指摘を受け、誌面の誤りを少しずつ直していった経緯があり、まさに一緒に作っていったという感覚が強くあります。
『紙しか残っていないのだから、プロに』
初版発行から35年を経ての復刻ですが、なぜ今なのでしょう。
大橋様:ちょうど、今年2020年で電波新聞社は創業70周年を迎えます。その記念で何か事業をやらないかという話が社内で持ち上がり、ならば『ネットで調べて一番高く売られている本から復刻しよう』と思いまして。とあるサイトでは11万円という“プレミア価格”で取引されていたのもあり、まずはこの「All ABOUT namco」の復刻を目指すことにしました。
原本は社内に残っていたのでしょうか。
大橋様:当時この本は非常に売れていたこと、私が出版から離れ別の部署の所属になったこともあり、残ってはいたものの状態の良い本はありませんでした。印刷所さんも、しばらくは製版フィルムを保管されていたようですが…35年も経つと全く残っていない。しかし何とかして復刻したいという思いがあり、何冊か購入し特に状態の良いものを電子化することにしました。
業者を探し始めた時期は?
大橋様:書籍の発売は2020年8月でしたが、その丁度一年前ですね。
電子化の業者を選ぶ上でポイントになったのは?
大橋様:インターネットで探したのですが、基準は“高い会社”でした。多くの電子化代行が『1冊300円』とか、安さを競っていますよね。
私の思いはそうではなくて、『紙しか残っていないのだから、この先ずっと残るデジタルデータを作りたい。ならプロフェッショナルしかない』と。もし「All ABOUT namco」の復刻に失敗してしまったら何冊かある複刻候補作の復刻は出来ませんから、慎重に選びました。
誠勝さんは色々な法人の実績もありますし、非破壊スキャナーなどの機材も持たれている。何でもそうなんですが、これは一度行かなければならないと思い、複刻企画候補作を直接御社に持ち込みました。そうしたら担当の方が「私もこれらの本を持ってましたよ!」って(笑)。
OCR処理を行った方が良い等色々ご説明いただき、納得しました。本当に良い選択だったと思いますし、私も先々で『古文書まで電子化しているプロフェッショナルな会社にお願いしたんです!』と話しています(笑)。
ありがとうございます。今回はOCR処理まで承りましたが、校正作業は御社内でされていますね。
大橋様:校正は私の他、社内外の方数名で行いました。自分達でやった理由は2つあります。
一つは、今回初めてだったので自分でやってみなければ、と思ったことです。PDFで検索や置換を何度も繰り返し、最も良い方法を編み出して4,5回やり直しました。『どこでどういう文字化けが生まれるのか』等分かってきたので、今後の復刻で役立つノウハウを溜められたなと。
また、原本にあった誤記や表現の訂正も狙いの一つでした。85年当時、私はナムコさんのゲームをPCに移植するチームのリーダーも務めていたのですが、その時のメンバーだとか、実際にゲームの音楽を作曲された方などが編集作業中に原本の間違いを指摘してくださって。今回そういった部分も訂正することができ、『完璧になった!』とみんな喜んでくれましたね。
また原本では『キャラクターを“殺す”』と書いていた部分を“倒す”と言い換えるなど、一部表現を丸ごと修正する作業も行う必要がありました。そういう作業も経験出来たのは良かったと思います。
沸き起こる大反響、そして今後の計画は
発行後の反響はいかがでしょうか。
大橋様:復刻版の発売については、私自身初めての試みとしてTwitterを利用しました。諸々のタイミングを見てようやく出版の目途がついた頃に“公式リーク”という触れ込みで表紙画像の一部を投稿したんです。そうしたらその日のうちに「いいね」が30万件もついて。それだけではなくスレッドの方にも買いたいと思っている方が気持ちを書いてくださったり、ボロボロになるまで使った「All ABOUT namco」の写真をアップしてくれたりと、とにかく沢山の方から反響をいただくことが出来たんです。そういった投稿には出来るだけ全部にお返事を書きました(笑)。
やっぱり原点は“紙”、紙で良かったと思います。30年以上前のものを未だに持っていてくださるとは。読者の方からすると、表紙を見ただけでその時の生活空間が思い出されてくるのでしょう。『涙が出てくる』と言ってくださった方もいました。本当に一生懸命やって良かったなという気持ちです。
さらに復刻を予定されているとか。
大橋様:はい、また誠勝さんにお願いするつもりです。縦書きがあったり文字の背景に色がついていたりと、OCR処理が難しい仕様の本もあります。でもチャレンジしたいと思っています。是非お力を貸していただければ。
「All about namco」については海外からの反響や注目も大きく、外国語版発行の話も出てきています。そういうことと連動しながら、「All about namco」が出た当時の世界の熱気、その中でクリエイティブな人たちがどんどん生まれるということをもう一度、日本で再現出来たらと思いますね。日本はITで完全に後進国ですから、もう一度“IT立国リスタート”が出来たらいいなと。誠勝さんには、その最初のきっかけを作っていただいて大感謝です。
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