東日本旅客鉄道株式会社様
鉄道はもちろん、Suicaなど私たちの生活に欠かせないインフラサービスを提供されている東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)様。2018年7月にはグループ経営ビジョン「変革2027」を発表し、新たな成長戦略にチャレンジされています。
同社大宮支社がすすめる「列車創造プロジェクト」もその一環です。従来、本社や支社の社員が担当していた臨時列車の計画に、運転士や車掌といった現場社員が携わるこのプロジェクト。そこに参加していた乗務員の発案から生まれたのが、手描きのイラスト地図にGPSが連動するという世界初のオンライン地図プラットフォーム「Stroly」を活用した「JR東日本社員おすすめ日光散策MAP」でした。実際に日光を訪れた現役の乗務員が“おすすめ”のお店や名所を紹介してくれるこの手描きの地図は、今年11月のローンチ以来多くの観光客に利用されています。
この度誠勝では、この地図の原画をアートスキャナーで電子化させていただきました。JR東日本の乗務員発案のプロジェクトとその背景、電子化サービスを探された時のポイント、そして誠勝をご利用いただいた理由について、同社 大宮支社 大宮車掌区 人材育成担当助役の原澤 奈那様よりお話いただきます。
きっかけは1人の乗務員の想い
今回スキャンさせていただいたオンライン地図Stroly「JR東日本社員おすすめ日光散策MAP」ですが、どのような背景で企画されたのでしょうか。
原澤様:当社のグループ経営ビジョン「変革2027」では時代の変化を先取りしていくため、これまでの“鉄道を起点としたサービス提供”から“ヒトを起点としたサービスの創造”に転換を図っていますが、中でも、「変革の主役は社員一人ひとり」として社員の成長と活躍のためのフィールド拡大に力を入れています。そんな中、現場で働く社員の成長につながる活動のきっかけを創り支援する立場として、大宮車掌区という乗務員職場の「人材育成担当助役」に1年半前、着任しました。
そこで、訪問メンバーが「現在日光への臨時列車を仕立てるプロジェクトに参加しているが、列車で日光までご案内するだけではなく、到着した日光駅から先もトータルでおもてなしできないだろうか。」と相談を持ち掛けたのがきっかけです。
JR東日本スタートアップ㈱の柴田社長も「現場社員やお客さまの困りごとを解決するのはまさにベンチャーキャピタルである当社の役目だから、何か一緒におもしろいことができたらいいね。」と乗ってくださって、検討が始まったんです。話し合いの末、「秋の日光の道路混雑は避けられないので、二次交通を検討することから発想を逆転させて、楽しく歩いてもらうために面白い地図を作ったらどうだろう」ということになり、手書きのイラスト地図にGPS(位置情報)が連動するという革新的なサービス“Stroly”を活用して日光の散策MAPを作ることになりました。
ベンチャー企業顔負けの柔軟さですね。
原澤様:そういう時代だと思います。「車掌だから鉄道や安全のことだけ」という仕事の線引きをせずに、社員一人ひとりが、自身を取り巻くあらゆる物事に興味を持って可能性を追求していかないと、グループとしてお客さまの期待に応えて生き残っていくことはできません。でも実際には、大宮車掌区という現場が社外のベンチャーと組むという社内的にもチャレンジングなものでしたので、調整は困難を極め発案から地図作成に着手できるまで半年以上かかりました(笑)。
「MAP」を作成されたのは、全員乗務員の方と伺っています。
原澤様:はい、4名の乗務員と一緒に地図を描きました。メンバー自ら実際に現地へ行って、掲載候補となる店舗や寺社に直接交渉して許可取り、絵の作成からデザイン、Web掲載の紹介文や写真の準備、㈱Strolyや東日本スタートアップ㈱との調整業務、プレスリリース資料作成までの全てを担いました。通常こういった企画であれば代理店を通してご協力をいただくことが多いですが、全ての作業を発案元である大宮車掌区のプロジェクト内で一貫して担うという社内でも例を見ない試みでした。
メンバーは乗務員なので、絵を描く、メールや電話などの店舗との調整といったことは車掌としての通常の勤務以外の時間でやらなければいけませんでした。休みもバラバラで泊まり勤務のため、メンバーが顔を合わせることがほぼ難しい状況のなか、苦労しながら進めていきました。
そういった中で1枚の地図を仕上げるための方法として、「A3サイズの画用紙を9枚、裏からテープでつなげて、その上に複数の人間が個別に描いたイラスト素材を、のりづけして貼っていく」という方法になりました。最終的にはスキャンしたデータを㈱Stroly側にお渡ししなければならなかったのですが、社内の複合機がA3までしか対応できなかったので、完成したら再度地図をバラバラにして、後は㈱Strolyが画像処理でつないでいただくことになっていました。
実は誠勝さんにスキャンいただく前日、前々日も深夜早朝からギリギリまでイラストを描いていました(笑)。同時に掲載店舗とのやりとりやポスター作成、プレス準備、社内会議の対応なども続いており、分刻みの戦いでした。
結果、「MAP」のローンチが11月2日で、㈱Strolyにデータを渡せたのが残り2週間も無いくらいでした。㈱Strolyにも位置情報の設定作業やWeb制作の作業があったので、その時間を考えると本当にギリギリというところでしたね。
本当に時間との闘いだったのですね。
原澤様:そうですね。やっとの思いで完成させた手書きのイラスト地図でしたが、完成した後、A3の画用紙を9枚つなぎあわせた大きな手書きのイラスト地図をデータ化するには、再びA3に切断してスキャニングしなければならず、せっかく描いた神社のイラストを真ん中から切ることになってしまうんです。㈱Strolyのご担当とも相談する中で、それはもったいないという話になりました。さらに、スケジュールが押していたこともあり、当初㈱Strolyにお願いする予定だった画像処理でつなぎあわせるための作業時間も十分に確保できない状況でした。
そんな時、㈱Stroly側から「裁断しないで大判をそのままスキャンしてくれるサービスがあるはずなので、探してみてはいかがですか」とアドバイスいただきまして、ネットで探してみることにしました。
決め手は“信頼”
誠勝へご依頼いただく前に、他の業者へご相談されたそうですね。
原澤様:大宮駅はターミナル駅なので、駅周辺にはスキャニングやデータ処理をやっていただけるお店もいくつかありました。まずはそこで聞いてみたのですが、どうしてもドラムスキャナーのように紙をローラーで巻き込む形の機械になってしまうという話でした。先ほどもお話したようにA3×9枚、しかもイラストをのりで切り貼りしていて表面が浮いているような状態なので、スキャンしたとしても「原本状態の保証ができない」と言われまして。他にもインターネットで10社以上の大判サイズのスキャニングを扱っている会社さんに問い合わせましたが、やはり巻き込み式のスキャナーしか持っていないということでした。
そんな中で誠勝さんのHPを見つけました。たまたま私が以前に、企業の信用審査に関わる部署で仕事をしていたこともありまして、その経験値から、行政とのお取引、大手企業や大学などとのお取引があることや、それらのロゴの掲載状態などからも判断して、見た瞬間に「あ、ここだ!」と(笑)。
お電話なさった際の対応はいかがでしたか?
原澤様:十何件も電話をかけて断わられ、本当に切羽詰まった時に誠勝さんに問い合わせたのですが、担当の方が非常に丁寧に話を聞いてくださって、まず電話口での信頼を強く感じました。多くの企業では営業と制作が離れているので、営業担当に聞いても「ちょっと制作側に確認します」と言って受話器を置かれてしまうところ、ワンストップで対応いただいたのも信頼性に繋がりました。お電話したときは、分刻みで多くの作業に追われていましたので、話が早いのはなおさら助かりました(笑)
それで、これまで他社さんへ問い合わせた際の対応状況などお伝えして相談したところ「ドラムスキャナーでも、こういうやり方をすれば保護できて作品を傷つけずにスキャンできるはず。もう一度聞いてみてはいかがですか?」って言ってくださったんです。もちろん「弊社(誠勝)なら大切な作品を切断せずに対応可能でございます」と自信を持って答えてくださったうえで、さらにこちら側の立場にたって、近距離かつ安価で対応できる選択肢を、一緒になって考えて提案してくださったのだと思います。合わせて、スキャニングの機械のことや業界の知識まで教えていただき、純粋に勉強になりました。
実際のスキャニングは、スケジュールがタイトだったので、完成した大きな地図を丸めて抱きかかえて電車で移動し、誠勝さんに持ち込みました。そこで初めて、絵画専用スキャナーを見て、非接触で裁断せずにスキャニングされる様子を写真で撮らせていただきました。その様子を上司やプロジェクトメンバーに携帯で送って、「この機械で、裁断しないで無事にスキャン出来ました!そのうえつなぎ目の補正や画像の調整までしていただけるそうです。」とリアルタイムで報告しました。
その画像処理は、いかがでしたか。
原澤様:地図を作成する途中で、店舗イラストの貼り直しや道の書き直しなどを何度も繰り返していたので、隙間が空いてしまったり、裏のテープが見えてしまったりといった場所が何か所もありました。
ですから、ただスキャニングするだけではなく、“(画用紙と画用紙の)つなぎ目”の補正やホワイトバランスまでやってくださるというのは本当に助かりましたね。スマホで展開した際に影がうつらないようにはがれて浮いていたのり付けを一緒にやりなおしてくださったうえで、時間をかけてこだわって補正作業をしてくださいました。
プロジェクトメンバーが実際にスキャンされた地図を見たのは“Stroly”として完成した際でしたが、「すごくきれい!」と歓声が上がっていました。
「こういうのが欲しかった」
ローンチから一ヶ月経ちました。
原澤様:初日はメンバーと一緒に現地日光に行き、お客さまに声かけしながらパンフレット配りをしました。目の前でスマホから二次元コードを読み取っていただくと、アクセスして地図がパッと表示された瞬間に「わぁすごい!きれい!」って。「こういうの欲しかったんですよね」とか「これ良いですね!もっと広めればいいのに」と嬉しい反応をたくさんいただきました。十分に宣伝も出来なかったのでアクセスが少ないのでは…という覚悟もしていましたが、現在のところ思いのほか反響をいただけています。
JR東日本様がオススメしている、という信頼も。
原澤様:そうですね。制服姿でお声をかけましたので、信用してパンフレットを受け取っていただき、お話を聞いていただけました。お客さまから「今からお昼なんですが、どこがオススメですか?」と聞かれ、作成したオンライン地図を実際に開きながら直接お店をご案内する、なんて場面もありました。掲載しているお店は、実際にメンバーが足を運んだことのあるおすすめのお店なんです。
今はさまざまなグルメサイトや情報マップが存在していますが、やはり手描きのイラスト地図がスマホ上で見れて現在位置(GPS)が載ることには、皆さま驚かれていました。「え?JRの社員さんが描いたんですか?すごい!お上手ですね!」なんて言いながらイラスト自体を楽しんでいただいたり、そういったお客さまとのつながりが「MAP」で生まれたのは良かったと思いますね。
誠勝さんでは、絵画のような希少価値があるものを対象に非接触スキャンをうたわれていたので、今回のような地図をお願いしてもよいものかと最初は心配していましたが、あのタイミングで誠勝さまと出会っていなかったら、このオンライン地図は完成していなかったかもしれませんので、本当に感謝しています。