Orangette Chalkart 金城まみ様

絵画電子化

“人の温かさ”を感じられるアートで町を豊かに ~お店の魅力を凝縮した看板がランドマークになるまで~

カフェ、フラワーショップ、飲食店、美容院などの店舗前で見かけることの多くなったチョークアート。今でこそ町中で目にすることが出来ますが、一般的に認知されるようになったのはここ6、7年ぐらいと言われています。


神奈川県大和市のアトリエを拠点にチョークアートを制作する金城まみ様は、日本におけるチョークアートの黎明期から第一線で活躍されているチョークアーティスト。これまでに400枚余りのチョークアート作品を制作すると同時に、毎月30コマものチョークアート講座を開催する講師としても活動されており、多くの方にチョークアートの魅力を伝えておられます。


この度そのままスキャンでは、金城様が制作されたチョークアート作品を看板印刷用データにスキャンさせていただきました。


チョークアートの魅力と可能性、看板製作までの経緯、そしてそのままスキャンへお声掛けいただいた背景について、Orangette Chalkart 金城まみ様ご自身のアトリエにてお話いただきました。


※新型コロナウィルス感染症対策のため、マスクご着用の上でお話いただきました。

今、チョークアートが求められている

チョークアートはどんな表現技法でしょうか。

金城様:チョークと言っても、皆さんが一般的にイメージされる学校のチョークとは全く違う画材で描くものです。学校で使用されるチョークが「白墨」という、貝殻を原料にした素材で出来ている一方で、チョークアートでは「オイルパステル」という、顔料とオイルをブレンドした画材で制作されます。油絵っぽい発光、色合い、風合いが特徴で、とても鮮やかな表現が出来るようになっています。


学校のチョークは黒板消しを使えば何度でも描き直すことが出来ますが、チョークアートでは基本的に消すことが出来ません。描いたらそのままで、かといって絵具のように上から塗り重ねて色を出すのも苦手。一発勝負ですね。テクニックが必要な分、描けるようになった時の喜びも大きいです(笑)。

チョークアートの画材
▲チョークアートで使う画材(オイルパステル)。重ね塗りが難しい一方、グラデーションで鮮やかな色合いを再現することが出来るという。

一発勝負となると、初心者にとって難易度は高いのでしょうか。

金城様:他の表現技法との関係で言えば『テニスが好きかサッカーが好きか』という感じ。つまり好みによると思います。チョークアートは黒地に描いていくので、写真写りが良く、締まって見える。特に食べ物やお花は合いますね。そういう意味では初心者の方でもやりやすいと思います。


やり始めの段階で『私、上手いかも?』と思えるし、追求していくと深い作品を作ることも出来る。それがチョークアートの魅力だと思いますね。

金城さんの作品は本当に美味しそうに見えます。まさに“シズル感”があると言うか。

金城様:昔から、食べ物の絵を褒められることが圧倒的に多かったんです。私自身美味しそうに描くのがとても好き。それを得意ジャンルに出来たこと、チョークアート自体が飲食店様に使っていただきやすいことでお役に立てるのは嬉しいです。


飲食店様で言えば、最近「シズル看板」という私が編み出したチョークアートの派生を取材で取り上げていただくことがあります。チョークアートとは異なる画材を使っていて、チョークアートよりも再現出来る色数や表現の豊かさ、質感は劣るんですが、こちらは絵を消して繰り返し描き直すことが出来るんです。『今日売りたいメニューをササっと描きたい』『終わったらまた描き替えたい』という飲食店様のご要望にお応え出来るのが、今注目いただいている理由かと思います。

金城様のアトリエ
▲金城様のアトリエ。ご自身の制作はもちろん、講座もここで開催されている。

現在はアーティストとして、講師としてご活躍されていますが、そもそもどのような経緯でチョークアートを始めたのですか?

金城様:18歳の時に美大へ入ろうとは思っていたのですが、当時はアーティストとして生計を立てられるとは考えていなくて。絵の他にファッションも好きだったので、絵もファッションも学ぶことが出来るファッション造形を専攻出来る美大の学部に進みました。卒業した後はアパレル企業に就職しました。


でも、絵を描きたいという気持ちは忘れられなかったんですね。趣味でもいいから、長い目でいつか…と考えていました。


そうしたらある日、職場の休憩室にあった雑誌に偶然チョークアートが掲載されていたんです。チョークアートの先生や職業としてのチョークアートが紹介されていたのですが、絵の経験が無い人でも始めやすいジャンルだとあって、もしかしたら私でも出来るかも、と。それでチョークアートの教室で勉強を始めました。10年ほど前になります。


今では認知度も大分上がってきて、飾ってあると『知ってる!』『素敵だね!』と言っていただけますが、当時はチョークアート自体ほとんど知られておらず、人に話しても『何それ、学校のチョーク?』って(笑)。ただ、一般的な絵画が嗜好品のイメージなのに対し、チョークアートは生活や仕事の役に立つ実用性・商業性のある点が魅力的でした。クライアント様のイメージがしやすかったので、そういう点がチョークアートを始める後押しになった、というのはありますね。


学校を卒業してからしばらくは自宅で制作していました。当時は飲食店様向けと言うより、結婚式のウェルカムボードなどのような小さい作品が多かったですね。その後だんだんオーダーをいただくようになってからは、会社の会議室をアトリエ兼教室としてお借りしていたのですが、オーダー数や受講生の増加に伴い、2020年末に現在のアトリエをオープンしました。

ストアカードとペーパースリーブ
▲チョークアートは看板に限らず、ストアカードやペーパースリーブとして二次活用することが出来る。

講座はいつから始められているのですか?

金城様:2017年の夏ごろからです。最初は「チョークアートのプロになりたい方」もしくは「趣味で習いたい方」のどちらかを生徒として想定していましたが、次第に本当に必要としているのが「お店で働いている方」だということが分かってきて、現在は飲食店関係に務めている生徒さんが多いですね。ご自身で運営されている方はもちろん、アルバイトとして勤務している方、会社から研修のような形で参加するよう言われたという生徒さんもいらっしゃいます。

金城様

飲食店様には私にオーダーしていただく所もありましたが、コロナ禍では政府や自治体の方針で、営業時間やメニュー内容を変更しなければならない時が多いじゃないですか。従来の印刷された看板だと迅速なメニュー変更や営業時間の短縮に対応しきれない。そうした変動する状況では「シズル看板」のような“描いて、消して、またすぐ描ける”という看板が使っていただきやすいようで、生徒さんの数は寧ろコロナ前より増えましたね。


今、スマートフォンのカメラがハイスペックだったりInstagramが流行っている影響で、誰でも写真を上手に撮れるようになっていると思います。すると町中や広告で見る写真に“見慣れ”てしまう。チョークアートのように、逆に手描きのメディアだと人情味と言いますか、人の温かさ・手書きならではのその人らしさが感じられる。特に新型コロナウィルスが出てからは人との触れあいが難しくなっているので、人のふれあい、温かさみたいなものが、いつもより更に届きやすくなっているような気がします。

お店の魅力を凝縮した大作

今回データ化をご依頼いただいた作品ですが、製作の背景を教えてください。

金城様:今回データ化をお願いした作品は、大和市内のお惣菜屋さんである「4DELI」様の店舗前に設置する看板の原画として制作したものです。元々店長様が私のイージーボード講座(現「シズル看板」)の生徒さんだったのですが、ご自身が描いた看板をお店に置いたところ、集客が大きく伸びたそうなんですね。その後、次のお店である「4DELI」をオープンすることが決まった時に、『是非、チョークアートを!』と言うことで、今回は外看板用にチョークアートをご依頼頂きました。

野菜、お弁当、Wi-Fiの情報と盛りだくさんの大作です。

金城様:制作に当たって、まず「4DELI」様からヒヤリングをしました。お店のロゴ、“手づくり・無添加”の文言、テイクアウトやWi-Fiが使えることの掲載など基本的なご要望をいただき、その上でデザインをしています。カット野菜など一切使用しておらず、朝から大量の野菜の下処理から行っています。素材の良さだとか体に良さそうなイメージ、手作りならではのほっこり感、そんな雰囲気が伝わるようなデザインを考えました。

▲制作された作品のスキャンデータ。野菜の自然な配置や「4DELI」様が持つ、優しい雰囲気の表現など、細かい箇所への金城様の“こだわり”が感じられる(画像に触れると拡大します)。

デザインする際にこだわった箇所はありますか。

金城様:野菜だけでなく、プレートがある、コーヒーとケーキのセットがある、イートインもテイクアウトも出来る、Wi-Fiが使える…と情報が沢山あるので、目線が看板をぐるっと一周する、スムーズに移動出来るようにしたいと思っていました。


実はこの作品、センターが少し左に寄った形で描かれています。「4DELI」様の建物の立地上、看板の右側がビルで少し隠れてしまうんですね。ですので“気付くか、気付かないか”の絶妙なレベルで、原画では中心をおよそ2㎝左に寄せて、看板にした時端まで見えるように描かせていただきました。一つ一つのモチーフを精密に描くと言うよりは、全体的な世界観、バランスを非常に気にしながら制作しました。

看板に最適なデータを作るには?

データ化についてはどのようにお考えだったのでしょうか。

金城様:今回はチョークアートの制作から看板への出力までご依頼いただきました。看板への出力は私も経験があります。でもデータ化をどうするか…当初は料理を別々のボードに描いてそれをデータ化し、PC上で配置してデザインしようと考えていました。それ以外思いつかなかったんです、スキャンは値段が高いだろうし、もっと精巧な絵に対してするものだという想定があったので。業者様に相談したら作品より高くなるんじゃないかと考えていました。


美術作品用の撮影スタジオも考えましたが、こちらは光の反射やひずみが出てしまうかと心配で。


そうして悩んでいたところで、講座の生徒さんで画像処理に詳しい方がいらしたので相談したんです。そうしたらその方が色々調べてくださって、『いいところがあるからここにお願いしてみてください!』と言われて(笑)。それで御社を紹介されたのがきっかけです。

弊社へご相談いただいた時のことを教えてください。

金城様:最初お電話で問合せたのですが、スキャン自体初めてだったので色々聞いたんですよね。スキャン対応サイズ、看板出力時の最適な解像度など…そうした疑問への一つひとつの説明がとても理解しやすかったのを覚えています。特に印刷における解像度に関しては知らないことが多かったので、そこを分かりやすくお話いただいたのは本当に助かりましたね。クライアントである「4DELI」の店長様にもしっかり伝えることが出来ました。お値段も想定内だったのでこれなら、と思いお願いさせていただきました。

金城様

データ化された作品を見た時は、どう思いましたか?

金城様:ひとつ不安だったのは作品の「そり」。とても大きな作品なのでどうしてもボード自体が反ってしまうんです。もしかしたらそれで綺麗にスキャン出来ないのではないかと。


納品データを見た時は…感動ですよね。「そり」の部分は微妙にピントが合わなかったと聞いていますが、そこも正確に直していただいて。またスキャンの後に印刷用に色彩の明度も高めていただきまして、イメージ通りのデータに仕上がっていました。完璧ですね。


凄くきれい、こんなに出るんだな、というのが正直な感想。色彩が自然ですよね。一眼レフで撮ったものは処理の関係でいくらか不自然になるところが、アウトラインまで綺麗に再現されていました。人の手描きは人目を引く魅力があるので、その魅力をそのまま活かせるのはすごいスキャナーだと思います。

「4DELI」様と出力された看板
▲データ化後出力され「4DELI」様に設置された看板がこちら(写真左部分)。店長様は金城様へ依頼した理由について『本物よりも美味しそうに、写真よりも生き生きと描いてくれるから』と話し、看板で足を止める通行人も多いという。なお、金城様が制作した原画は店内で展示されている。

ありがとうございます。看板が完成した時は、いかがでしたか。

金城様:「4DELI」様に伺ったのですが、看板開封時にスタッフさんが泣いてしまったそうで(笑)。店長様はとても美的センス・感度の高い方なので、完成度の高いものをお届けしないと、と思っていました。当時依頼したのが年末で、実は時間が無かったんです。あのタイミングでデータ化いただけなかったらと思うとヒヤヒヤしました。全てスムーズにやっていただいて本当に感謝しています。今後も是非利用してみたいですね。

今後の展望等はありますか。

金城様:微力ですが、チョークアートが使われることでお店の魅力を再発見する、そういう機会をどんどん作りたいなと。今、着々とチョークアートのプロが育っているので、一緒にチョークアートや「シズル看板」を使って地域を盛り上げたいと思います。大和市は横の繋がりが強い街で、『あれをやりたい』と思うと周りの方が次々と繋げてくれるんです。そんな大和市をもっとオシャレに、ワクワクするようなことが出来れば嬉しいですね。