サガキケイタ様

絵画電子化

サガキケイタ様

一見誰もが見たことのある絵なのに、近くに寄ると見たことのない要素が精緻に描き込まれている。製図ペンで独自の世界を創り上げるサガキケイタ様は、ドイツ、香港、台湾など海外でも個展を開催され、高い評価を受けているアーティストです。


誠勝では、過去2度に渡ってサガキ様の作品『観見の二つあり、観の目つよく、見の目よわく、遠き所を近く見、近き所を遠く見る』そして『Die Another Day』をそれぞれ版画制作用にデータ化させていただきました。


版画=原画の複製というイメージもある中、『版画は単なる複製ではない』と言うサガキ様。作品コンセプト、版画へのお考え、そしてデータ化に際しカメラではなくアートスキャナーを選んだ理由について、サガキ様(以下、敬称略) のスタジオにてお話いただきます。

『部分』と『全体』の世界

いつ頃から現在の作品のスタイルになったのですか?

サガキ:もうずっと。大学生の頃、本格的に制作を始めた15年くらい前からですね。『部分と全体』をテーマとして、色々な古典的モチーフ、誰もが知っているモチーフだけど近づいて見てみると全然違ったものが見える。このスタイルで制作をしています。


仏教の宗教画で曼荼羅ってありますよね。小学生の時、父親に曼荼羅の展示会へ連れていかれたことがあったんですが、それが本当にビジュアルショックだった。すごく細かくて精密な仏たちや地獄絵図のような風景が極彩色で描かれていて、怖いけどすごく惹かれたんです。それが原体験として鮮明に焼きついていて、今のスタイルのバックボーンになっている。曼荼羅のコンセプトを知らなくても、絵としての強さ、曼荼羅の持つ視覚的イメージみたいなものの強さが昔からとても好きでした。

  

学生時代はオリジナルの曼荼羅を制作したりしていましたが、そこから『細密』という要素だとか、全体が宇宙で部分が個、つまり人間であるという『部分と全体の関係性、対比』といったモチーフにインスパイアされ、現在のスタイルに繋がっています。

2度目にスキャンさせていただいた『Die Another Day』は、全体は西洋風ですが、よく見ると日本の鬼が?

サガキ:ムンクの『マドンナ』という作品がモチーフで、離れて見ると誰もが知っているイメージだけど、近づくと得体の知れない魑魅魍魎に切り替わっていくという作品です。


元々知っているモチーフは、もう一定の評価がされていますよね。その『価値づけされたもの』と『得体の知れないもの』というものの価値の逆転、転換のダイナミズムが生まれることによって、価値観や美意識というのは不安定で流動的であるということが再認識される。価値観は固定されたものではなく視点や見方によって変わりますし、人によって『美しさ』の基準が全然違ったりもします。そのような『視点の変化による価値の転換』といったコンセプトに基づいて制作しています。

▲スキャン画像を基に作成された『Die Another Day』の版画。一見有名なムンクの作品だが、近くで見ると…?(マウスを載せると拡大します)

見方によって相当変わりますね。細かいところをちょっと見てみると『あっ!』っと。

サガキ:可愛いもの、美しいものだけでなく、セクシャルだったりグロテスクだったりと対照的なものも描いています。可愛さ、美しさといったとっつきやすい視点だけではなく、それと反対のもの、あえてちょっと目をそむけたくなるようなモチーフも描き込むことで、バランスと言うか、世界の縮図、森羅万象のようなものを描いていきたいな、と。


最初にスキャンさせていただいた、こちらのオリンピックの絵も。

サガキ:ええ、離れて見ると、これは1964年の東京オリンピックの際、亀倉雄策がデザインしたポスター。非常に有名なモチーフですが、これも『部分』に寄るとメダリストや様々な競技、オリンピックの歴史の中に、実はオリンピックの負の歴史、ネガティブな部分も一緒に描かれています。来年オリンピックがある中で、賛成・反対という二元論ではなく、ポジティブ・ネガティブをごちゃまぜにしたニュートラルな視点で捉えてみるといった狙いがあります。ちなみに、この長たらしいタイトルは宮本武蔵の『五輪の書』から拝借しました。五輪繋がりのダジャレですね。でも自分のコンセプトとも共鳴するような一節で、見た瞬間に「これだ!」と思いました。

▲オリンピックのポスターをモチーフにした『観見の二つあり、観の目つよく、見の目よわく、遠き所を近く見、近き所を遠く見る』の版画。こちらも近くに寄ると、美醜様々なキャラクターが無数に描き込まれ全体を構成していることが分かる。(マウスを載せると拡大します)

版画は原画の“複製”ではない

今回これら作品をデータ化しようとしたきっかけは何でしょう。

サガキ:この2作品はどちらも版画として展示・販売しているのですが、それを制作するためのプロセスとして画像に取り込みたくて、スキャンしてもらおうと。15年間続けてきた中で、新しい方向性、挑戦として版画というものを作ろうかとギャラリー等と相談し、まず『観見の二つあり~…』の方を最初に制作しました。

作品の『二次活用』ということでしょうか。

サガキ:版画は“オリジナルの複製”みたいなイメージがありますが、自分は全然違うものとして捉えていて、版画ならでは、版画でしか出来ない表現があると思っています。例えば『観見の二つあり~…』の版画では、下の文字に色を使ったり全体的にラメなどを混ぜたりしていますが、こういった表現は原画ではできない。版画ならでは、独特の表現だと考えています。同作はオリジナルの作品もポスターという媒体で、複製される前提で作られているんですね。それに倣ってやはり版画で作って展示しようと思いました。

サガキケイタ様

白黒の作品を正確にデータ化するには?

画像としての取り込みに際し、カメラでの撮影は検討されなかったのでしょうか。

サガキ:普段、アーカイブとして撮る際には自分で一眼レフを使って撮影したりしますが、版画となるとやはり解像度を高くしたかったんですね。カメラ撮影だと全体を均一に同じピント、同じ明るさでという調節がすごく難しくて、『微妙にこっちが明るくてこっちが暗い』みたいになってしまうんです。


色のある絵ならそこまで気にならないかも知れませんが、モノトーンの作品なので、彩度が無い分、明暗の調子が分かりやすく出てしまう。画面全体を均一な明度でデータ化するとなると、やっぱりスキャンが良いなと思いました。

すると、スキャンを依頼する上で重要だったのは『クオリティ』でしょうか。

サガキ:そうですね。先ほど言ったように、自分が求める明暗の均一性、解像度などが一致していたという点で選ばせてもらいました。
他に大きかったのは“大きいサイズを一発撮りでスキャン出来る”というところですね。『観見の二つあり~…』はサイズが100cmを超えますが、あの大きさを一発で撮ってくれるところはなかなか無いです。あまり分割して撮影してしまうと色味が変わってしまい、後から調整するのがとても手間になります。


あと、カメラ撮影だと、トリミングの際に作品の端が切れてしまったり、歪んでしまうということがあります。その点スキャンならそのまま正確にできるイメージがあった。

他に、弊社に声を掛けてみようと思われた理由はありますか。

サガキ:大きい作品に対応できるとしても、例えばキャンパスから作品を剥がしてローラーのような機器でスキャンするところもありますよね。ただ自分は木製パネルに貼りつけて水張りして描くので、キャンパスやパネルに貼ったまま、できるだけフラットにスキャンしてもらいたいという気持ちがありました。原画を保管しておくという観点からも、張ったままなら保存状態は良い。だから『直接スキャンできる』というのもすごく大きかったですし、魅力的でしたね。

実際に依頼してみて、お値段や対応はいかがでしたか。

サガキ:最初に依頼した『観見の二つあり~…』の時は石川県のスタジオで制作していたので、そこから送ってスキャンしてもらったんですよね。あの時は台湾での個展に向けて大きいサイズの作品を描かなきゃいけなかったですし、東京アートフェアへの出展も控えていたのでけっこう忙しかった。そんな中で作品を送る日程、取りに行く日程を調整してもらったのは助かりました。

サガキケイタ様

例えばプロのカメラマンにお願いすると、スタジオ借りて、照明を使って…と時間がかかりますし、人件費など色々な費用もかかる。そういう価格的な面で見ても、メリットは大きかったかなと思っています。

ありがとうございます。サガキさんの作品は特に、解像度が低いと『部分』が見にくくなってしまうと思いますが、版画にしてみていかがでしたか。

サガキ:版画は色々な所で展示しましたが、観てくれる人が全然版画だと気付かないくらいのクオリティになりましたね。『版画なんですよ』って言うと『原画だと思った!』ってすごいびっくりされるような感じでした。結構皆さん面白がってご覧になっていたので良かったと思います。

引き続き版画は作られるおつもりでしょうか。

サガキ:版画はオリジナルを作るのとは制作工程なども違いますし、自分自身にとっても、その制作自体が刺激になっているので、版画は継続して作っていきたいなとは思っています。先ほども言ったように、原画の複製ではない、版画でしかできない表現というのを原画と並行して両方、『表現の幅』としてやっていくという意味でも、版画制作っていうのは面白いですね。

サガキケイタ様と作品
サガキケイタ様プロフィール

<サガキケイタ>

1984年石川県生まれ。全体と部分の関係性、視点の変化のよる価値の転換、対立概念の共存の3つをコンセプトに制作。製図ペンを用いて有名な古典絵画のイメージをおびただしい量のキャラクターの描き込みによって再構築する。主な個展に「My Girl」(多納芸術 Donna Art/台湾)、「Baroque Deconstruction」(Fabrik Gallery/香港)、「花鳥風月/百鬼夜行」(日本橋三越)、「MERONYMS」(MICHEKO GALERIE/ドイツ)、グループ展に「第13回岡本太郎現代芸術賞」展(川崎市岡本太郎美術館)など。

【HP】https://sagakikeita.com/