あしなが育英会様

非破壊電子化

組織の「アイデンティティ」を語りつくために

1967年に設立された「交通事故遺児を励ます会」、およびそれに端を発した「あしなが運動」にルーツをもつ「あしなが育英会」様は、保護者(父また母など)が、病気や災害(道路上の交通事故を除く)、自死(自殺)などで死亡、または保護者が著しい障害を負っていて、経済的に苦しい家庭の子どもたちを物心両面でサポートする、民間の非営利団体。


日本国内だけでも40万人以上いると推計されている親を亡くした子どもたち。「あしなが育英会」様は1993年の団体設立以降、「あしなが運動」として、これまでに国内外10万人以上の 子どもたちの学びを、民間の立場から支援されてきました。阪神・淡路大震災や東日本大震災といった大規模な災害を経て、近年その役割は重要度を増しています。

50年以上の歴史をもつ「あしなが運動」のアイデンティティを、組織の内外にどう語り継ぎ、ステークホルダーとの信頼関係をどう深めてゆくか。「あしなが育英会」 事務局次長兼総務課長 花岡洋行 様、奨学課 岡村唯香 様にお話を伺いました。

親を亡くした”すべて”の子どもたちの為に

「あしなが育英会」について教えてください。

岡村様:「あしなが育英会」は、交通事故以外の理由で親を亡くした、または親が著しい障害を持つ家庭の子どもを対象に、奨学金の貸与・給付、他、教育支援を行っています。まだまだ認知度は低いかと思いますが、日本国内の子どもたちだけでなく、国外、特にアフリカの子どもたちにまで支援の対象を拡げています。

本会会長の玉井義臣らが中心となった「あしなが運動」により、1969年、交通事故で親を亡くした子どもたちへの支援を行う財団法人 交通遺児育英会が設立されました。その後、「交通事故以外の理由で親を亡くした子どもたちにも支援を拡大する必要がある」と考えた玉井が外に出て、1993年に設立したのが、「あしなが育英会」です。

花岡様:本会には2つの柱があります。ひとつは「教育支援」。中心は奨学金事業ですが、それ以外にも「心塾」という学生寮の運営や、大学生を対象とした海外研修なども含まれます。もうひとつの柱が、「心のケア」。悲しみやトラウマを抱えた子どもたちの気持ちに寄り添う活動です。国内に「レインボーハウス」という施設を5か所運営し、年間を通じて様々なプログラムを実施しています。


交通遺児育英会は財団法人なので事業内容が定款で定められていますが、我々は民間の非営利団体という立場で、子どもたちの支援に取り組んでいます。どんな理由でも子どもたちをサポートできないという空白を作ってはいけない、というのが基本的な考え方です。

外部の方にもお見せする貴重資料、しかし…

今回電子化されたのは?

岡村様:電子化したのは、『交通遺児育英会20年史』という1300ページ以上の分厚い本です。現在まで続く「あしなが運動」のはじまりの20年間や、奨学金の成り立ちなどがまとまっており、歴史を振り返るときに使う、いわば辞書のようなものです。

電子化したあしなが育英会様の書籍

この本は30年以上前に制作された非売品で、本会で保管しているのは3冊のみです。この本を一部スキャン、コピーして、外部の方へ説明資料としてお渡しすることがあるのですが、これまでは本会のスタッフが1ページずつ手作業でスキャンしていました。外部の方にお渡しする資料ですので、見やすく、きれいにスキャンする必要があり、毎回膨大な時間がかかって苦労しておりました(笑)。

花岡様:一般的な企業と我々が違うのは、我々が非営利の社会運動団体であり、運動の歴史を学ぶ重要性が高いことです。「あしなが運動」がどういった経緯で立ち上がり、「あしながさん」と呼ばれる匿名の寄付者の方々がどういった気持ちで支援されてきたか、といった根っこの部分を知らないと、今の活動ができないんですよね。ただ、今の若い子たちにこの本を「読んで」と渡しても、なかなかすべては読めないですよね。

寄付で成り立つから“信頼性”が重要

誠勝にご依頼いただいたきっかけは?

岡村様:「スキャン」などのキーワードで検索した結果出てきたサイトからいくつか検討し、「信頼できそうか」「ウェブサイトが機能を果たしているか」で判断しました。


私どもは寄付で成り立っている団体なので信頼性がとても大事です。この本自体も貴重ですし、書かれている内容も重要なものです。「この本を預けて大丈夫か?」を重視して決定させていただきました


実は他社さんのほうが単価は安かったのですが、納期は誠勝さんのほうが早かったです。そのときはスキャンを急いでおり、コストも許容範囲だったため、信頼できそうな会社をほぼ直感で選ばせていただきました(笑)。営業の方からすぐに連絡をいただき、資料を受け取りにいらした際に丁寧に打ち合わせをしてくださったことも、信頼度が増しました

岡村様、花岡様

納品形態はいかがでしたか?

花岡様:もともとPDFデータだったのかと思ってしまうぐらいきれいな仕上がりで、裏写りもなく、びっくりしました。ファイルも章ごとにそろえていただき、検索もしやすくなりましたね。

電子化で原点の共有と意識改革を

電子化されたことでお気づきのことはありますか?

岡村様:まず、持ち運びや送付がしやすくなったことが大きいですね。紙資料だと持ち運びも難しいですし、徐々に劣化してゆきます。重かったものを薄くして、みんながすぐに持ち運べるようにできたこと、物理的に本が無くなってしまっても、データはサーバーに保管されている状態にできたので安心です。


会長の玉井は80代になった今もエネルギッシュに活動しております。日々新しい情報を取り入れて、昨日までなかったものを当たり前のようにつくりだしてしまう玉井ですが、考えや想いの軸は今もこの本の中にあるのだと感じます。そうした玉井のブレない想いに、外部の方にも、本会のスタッフにも、もっと接してもらいたいと思います。

岡村様

花岡様:玉井の想いは、この本にまとまっています。いわばこの本は我々のアイデンティティです。


社会運動家である玉井は、今も後ろをふりかえることなく、目の前の課題を解決することに心血を注いでいます。いっぽうで我々の組織としては、設立当初と比べると事業の幅も深さも広がり、スタッフもどんどん増えています。NPOなので、働く人もそれぞれが強い想いを持って入ってきます。すると、ともすれば活動の方向性にブレが生じかねません。そんなとき、原点に立ち戻るための資料がある、だれでもアクセスできるようにしておく、というのは大切ですね。

花岡様

それからもう一つ、電子化には、我々自身の意識改革という狙いもあります。 私たちのステークホルダーは多種多様です。デジタルの時代ですが、支援者様にお届けする機関紙などの資料はまだまだ紙が必要です。ただ、長年紙の資料を作り続けていると、ともすればそれを「作って残すこと」自体が目的化してしまう。特に我々のような「気持ち」で仕事をする団体では、どうしても昔ながらのやり方が続きがちです。

モノで残すことも大切ですが、モノを残すことが目的ではない。今の時代にあわせて、残すべきものは残し、変えるものは変える。会長の玉井や、支援者様の「想い」を伝えてゆくために、電子化も活用できると思っています。

【「あしながさん」になってください】

病気・災害・自死などで保護者を亡くした子どもたち、保護者が著しい障害を負っている家庭の子どもたちは、経済的な理由で進学をあきらめることが少なくありません。

そんな子どもたちの進学の夢を、そっと継続的に支援してくださる方のことを、「あしながさん」とお呼びしています。

これは、アメリカの小説『あしながおじさん』にちなんだものです。

継続したご寄付やボランティア活動など、さまざまなご支援方法があります。

→ あしなが育英会ウェブサイト https://www.ashinaga.org/support/

あしなが育英会ロゴ
あしなが育英会
設立
1988年4月20日
事業内容
国内外における遺児支援事業の展開
HP
https://www.ashinaga.org/