株式会社Jコミックテラス様
2017年、電子コミックスの売り上げが紙を初めて逆転したことをご存知でしょうか。今や世界中で愛されるコンテンツとなった日本の『漫画』は、形を変えながらも私たちにとって最も身近なエンターテインメントであり続けています。
しかしデジタル化が進行した今でも、残念ながら全ての漫画を楽しめる訳ではありません。様々な事情によって“絶版”となり、紙でも電子版でも日の目を見なくなってしまった過去の名作たちが無数にあります。『海賊版サイト』への対策も、大きな課題のひとつです。
こうした状況を改善すべく、『魔法先生ネギま!』『ラブひな』といった大ヒット作で知られる現役の漫画家・赤松健先生が立ち上げたのが、無料で絶版本をはじめとした電子版コミックを読める現在の『マンガ図書館Z』でした。現在同サイトは月間読者数100万人以上、掲載作品数約6,000(いずれも2018年8月現在)という大規模な電子書籍プラットフォームへと発展しています。
誠勝では2015年から現在に至るまで、同サイトで掲載されている多くの作品を電子化させていただいております。
『マンガ図書館Z』を立ち上げた背景、運営者の想い、そして電子化を巡るストーリーについて、同サイトの運営会社である株式会社Jコミックテラス 取締役 佐藤美佳様、コンテンツ開発部 神戸仁史様にお話を伺いました。
“絶版”が無くなる
『マンガ図書館Z』は、どのようにして誕生したのですか?
佐藤様:まず、赤松は2011年に『Jコミ(2014年7月に『絶版マンガ図書館』へ改名)』というサイトを立ち上げ、知り合いの漫画家に声を掛けて既に絶版していた作品を無料で公開していました。その後ご縁があり、2015年に株式会社GYAOと赤松で株式会社Jコミックテラスを設立し、弊社にて『絶版マンガ図書館』をリニューアルしたのが現在の『マンガ図書館Z』になります(注:2018年7月にメディアドゥホールディングスが子会社化)。
最初は実験的に赤松の代表作『ラブひな』を公開し、その後は絶版した過去作に限り、作家さんに許可を得てアップし続けていたのですが、『マンガ図書館Z』では新作を含めた作品の投稿機能に加え、PDFファイルでの販売やプレミアム会員制度など、定常的に様々なコンテンツに触れ合えるようになっています。
佐藤様:そもそも出版業界に“絶版”という概念は存在せず、『重版未定の状態が続いている』というのが正しい言い方になります。出版社と作家さんの間で契約は続いているものの、印刷されない。すると雑誌には掲載されたけど単行本化されないなどということになり、結果世に出なくなるケースがかなり出てくるんですね。単行本にされていて大人気でなければ流通し続けることが出来ないという背景がありました。
赤松は現役の漫画家なので、こういった業界の事情についてよく知っています。ですので『せっかく発表された過去の作品が人の目に触れないのは辛い』という想いをずっと持っていたのが、このサービスのきっかけです。
『絶版マンガ図書館』から『マンガ図書館Z』へ発展させようと思った理由は?
佐藤様:いわゆる電子書籍が次々と出だした頃『いよいよ絶版本が無くなるな』と思いました。紙ではなくデジタルになった瞬間、ずっと未来永劫に販売出来る事になり『紙を刷らない=絶版』することがどんどん無くなっていくんじゃないかと。
そうなった時に、もっと新作等新しいことにしっかり踏み込んでいかなければ、事業自体が意義のあるものだとしても継続できなくなるのではと考えました。
また、それまではいわゆる商業作家さんの作品だけを公開していたのですが、投稿を増やしてセミプロ・アマチュアの方々にも同じプラットフォームに乗ってもらうことが出来れば、クリエイターにお金を還元する仕組みが作れるのではないかと思ったのもありますね。
背景としては海賊版サイトの存在も?
佐藤様:赤松が以前、ある海外の方から『作品が面白かった』というコメントをいただいたことがあったんですが、それが実は海賊版でした。読んでくれるのは嬉しいけど海賊版で…非常に複雑だったようです。やはり海外だと公式でも値段が非常に高かったり、海賊版しか出回っていなかったりという事情がある。ならばどこの国からでも無料で見れるようにというのも背景があります。『マンガ図書館Z』も、現在多言語化が進められています。
一冊ずつ丁寧に電子化、しかし
ご依頼いただいたのは2015年ですが、それまではどのように電子化を?
神戸様:『絶版マンガ図書館』から4年間は自宅で私がやっていました。いわゆる市販の“自炊”用スキャナーで、一冊ずつ裁断しながら…元々“自炊”したことが無かったので、糊をアイロンで剥がすとか、より大型のスキャナーに代えるとか、インターネットでより良い方法を調べて『どうやったら本を丁寧に電子化出来るか』色々試行錯誤していましたね。綺麗な画を汚い状態で公開したくなかったので…
本当に忙しい中、何とか空き時間を使ってやっていました。
佐藤様:『マンガ図書館Z』を設立したタイミングで東京にオフィスを作ったんですが、引き続き電子化の作業は神戸が行っていました。床でやらないと落とした時バラバラになってしまうので、神戸の自宅の環境と同じ畳を敷いて(笑)
それは大変な作業ですね。一日何冊ほどスキャンされていたのですか?
神戸様:全ての時間をスキャンに費やす訳にはいかなかったので、6冊程度が限界でした。
佐藤様:神戸は全冊、スキャン後に画像が裏写りしていないか、画像が汚れていないか、黄ばんでいないかなど細かくチェックしながら作業していました。次の工程として画像処理班が画像の修正やロゴの削除等を行うのですが、班の手間がなるべく少なくなるようにと丁寧に。
『ユーザーを飽きさせないスピード』を実現出来るか
丁寧に時間を掛けて電子化していたのですね。
佐藤様:ですので、誠勝さんにお願いするまで公開されている漫画は多くありませんでした。赤松のこだわりとして『全巻揃っているものは同時に配信したい』という想いがあったので、例えば長編なんかはスキャニングに時間が掛かるので後回しになってしまったり…
電子化を外注しようと思ったきっかけは何でしょうか。
佐藤様:より大量の作品を公開したいと考えたことと、神戸の時間を確保する必要があることが理由です。
電子化代行を選ぶ際、注目したポイントは?
佐藤様:価格・スピード・品質です。まず実際に公開する作品をサンプルとしてスキャンいただき、品質を確かめました。『毎日更新する』スピードを維持しなければならないので、あとはその品質でどれくらいの量を捌けるのかも重要です。
その三点にご納得いただき、弊社へご依頼いただいたと。
神戸様:誠勝さんはスキャン後に画像を白く加工してくれるんですが、それが画像処理班にとって非常に助かるんです。値段が安くても品質の面で足りない所が出ては意味が無いので。
佐藤様:実は、誠勝さんより安い業者さんもあったんです(笑)。ただ神戸と相談し、それでもお願いしようと。
スキャニングを外部へ委託すれば神戸の手間は減ります。しかし画像処理班の作業時間が増えてしまうと、元々の目的だった『効率化』が出来なくなってしまう。結果的には『価格』か『品質』どちらかへしわ寄せが来ますが、我々にとって品質は必要な投資と考えています。長い目で見れば適切な費用感ですね。
現在は漫画の他にもライトノベルや生原稿、ゲラ刷り等もお願いしています。特にゲラ刷りはあまり状態の良くないものもあるのですが綺麗に電子化いただいています。
初めての電子化代行に不安はありましたか?
佐藤様:公官庁など色々な実績がありましたし、直接作業場にもお邪魔させていただきとても誠実に作業されているのが分かりました。大きかったのは神戸が安心していたことですね。
神戸様:お願いする時はどういう状態で電子化しているのか見たかったので、中を見させていただいたりスキャナーを見学させてもらったりしました。サンプルもただスキャニングした画像と加工まで行ったもの、両方見せていただきました。
当時はこれ程の量をスキャニングしているのは自分だけだと思っていましたから、共感できる所を見つけて嬉しかったのを覚えています(笑)
3年という長い期間ご依頼いただいておりますが、お困りの点はありましたか?
神戸様:最初にADF(自動給紙装置)でスキャンしていた際、問題が生じたんですよね。それで現在のフラットベッドスキャナーで電子化する方法に切り替えていただいたんですが、そういう風に『どうしたらいいんだろう』という時に相談に乗っていただけたのはとても良かったです。
他にも細かい仕様、例えば『カラーページだけ別にして欲しい』とか『黒い原稿の黒背景のトーンが読み取れているかチェックして欲しい』といったファイルの作り方とか、ちゃんと対応いただけるので助かっています。こういう要望って他ではありませんよね?(笑)
弊社スタッフにも何度もお会いいただいていますね。
神戸様:電子化のディレクターさんともよくやり取りさせていただきますが、ああいった方がいらっしゃるととても安心しますね。
佐藤様:顔が見れるのもそうですが、漫画などのサブカルチャーが好きな方ならではのこだわりがあったりしますので、そういった方々に作業していただけると話しやすいです。
常にクリエイター目線で
最近は無料で漫画を公開するサービスも増えてきましたね。
佐藤様:元々『マンガ図書館Z』がローンチした2015年の段階で、アプリとしては結構な数がありました。
しかし流通していない『絶版本』まで公開しているのは我々独自のコンテンツだと考えています。
他にも、漫画家が首脳陣の一人であるというのは大きな特徴です。現役の漫画家の言葉が加わることで私たちの知りえない事が分かるようになる。
絶版漫画図書館の設立時も、漫画家の皆さんは『同じ作家である先生が立ち上げたから』ということで安心して掲載を受諾いただいたんです。この強みは大切にしていきたいですね。
●マンガ図書館Z: