デジタルアーカイブを構築する上で、資料のデジタル化は避けて通れません。しかし一口に資料と言っても様々な種類があり、とりわけデジタルアーカイブのようにイレギュラーな資料がたくさん対象となる場合は、単なる書類のスキャニングや自炊代行とは全く異なる対応が必要です。
では、そうした貴重資料をデジタル化するにはどのような方法があるのでしょうか?5,000社以上の法人様のデジタルアーカイブ構築を支援し、10種類以上の特殊な業務用スキャナーを所有する「そのままスキャン」が開設させていただきます。
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貴重資料のデジタル化、それぞれの方法とは?
結論から言えば、貴重資料のデジタル化が難しい理由は「特殊な機材を使わなければならないから」です。しかしハードがあれば良いかというとそうでもありません。
各貴重資料別に、それぞれの事情を解説していきましょう。
古書・貴重書
博物館や資料館などで収蔵されていることの多い古書・貴重書は、多くが経年劣化により原本に痛みが見られます。具体的には
- ページや文字の掠れ
- ページの抜け落ち
- 黄ばみ
- 湿気によるカビの発生
などがダメージとして起こっており、一般的な複合機やオフィス向けのスキャナーでは対応出来ません。
こうした古書・貴重書のデジタル化にはいくつかの手段が存在しますが、最もスタンダードなのはオーバーヘッド型スキャナーというタイプの機材を活用することです。オーバーヘッド型スキャナーは文字通り資料の頭上にカメラが設置されているスキャナーで、資料に触れることなく見開きの状態で書籍をスキャンすることが出来ます。
「オーバーヘッド型」と呼ばれるスキャナー自体は自炊用のものも販売されていますが、個人用ならともかく貴重資料のアーカイブ化が目的であればクオリティ面での不足は否めません。「そのままスキャン」では実際に世界中の博物館や図書館で導入されているオーバーヘッド型スキャナーを使用し、古書・貴重書のデジタル化を行なっています。
分厚い書籍
いわゆる貴重資料とは異なりますが、図書館や資料館には「専門書」「学術書」と呼ばれる類の本があります。非売品や絶版の書籍が多く、数百ページは当たり前にあるほど分厚いのが特徴です。
こういった書籍は分厚いだけでなく、ページもあまり開くことが出来ません。するとオフィスの複合機のように「スキャナーの読み取り面に押し付けて」デジタル化することは難しく、出来てもページの中央部分に影が出来てしまいます。
分厚い書籍に有効なのはフラットベッド型スキャナーです。フラッドベッド型は読み取り面のエッジ部分に書籍ののど奥を当ててスキャンするタイプのスキャナーで、ページの中央部分でも影を出すことなくページのデジタル化をすることが出来ます。ただしこのスキャナーはページ面を押し当てる手法のため、先述した古書・貴重書にはあまり向いておらず、私たちの現場でも専ら「それほど劣化していない書籍」で使われています。逆に言えば、それだけ汎用性は高いスキャナーです。
美術品・絵画
恐らく美術品や絵画作品のデジタル化で最もポピュラーな方法は、専用スタジオに作品を持ち込み(もしくは施設内にスタジオを再現し)一眼レフで撮影する方法になります。これはアーカイブの現場に限らず、美術大学やアマチュアアーティストの間でも広く浸透しているやり方ですね。
油絵や水彩画などの絵画作品、刺繍等の平面に近い美術品は専用のアートスキャナーが使われます。こうした資料はその貴重性もさることながら「どれだけ精緻なデータを撮れるか」が他の資料以上に重要となるため、書籍以上に使える機材が限られてきます。
絵画作品は書類のように自動で大量の作品をスキャン、という訳には行かず、基本的には1作品ずつ手作業でセッティング・スキャンすることになりますが、アートスキャナー自体は「接触型」と「非接触型」に大別されます。
接触型は、作品の表面に透明で軽量なアクリル板を載せるタイプのスキャナーで、先述のオーバーヘッド型に近い仕様となっています。非接触型よりもポピュラーな機材ですが、作品の表面にアクリル板を当てることになるため、非常にデリケートな作品や触れること自体が気になる方にはあまり向いていません。
一方の非接触型は、スキャナーの光を上から照射するという方法のため作品に触れる心配がありません。「そのままスキャン」で採用しているアートスキャナーもこの非接触型を採用した機材となっており、『とてもデリケートな作品だから表面に触れずにスキャンして欲しい』『絵の具が盛られた作品だからアクリルは乗せられない』という方から重用いただくことの多いスキャナーです。
接触型、非接触型いずれも注意しなければならないのは、カメラ同様「光」を照射するデジタル化のため、支持体や表現によっては色合いが潰れてしまうという点。またスキャナーに流すという方法上、撮影できる作品サイズに上限があるという点です。
一眼カメラ、スキャナーそれぞれにメリットとデメリットがあります。それぞれの作品のタイプや予算を吟味した上で適切な方法を選ぶのが良いでしょう。
立像、彫刻など立体物
立体物に関しては、近年博物館等での3Dスキャナーの導入が進められています。3Dスキャンとは、対象に測定用の光を照射することで3次元座標を取得し3Dデータとして生成することです。生成した3Dデータで複製品を作ることも可能で、資料や美術品といった平面の対象物で出来たことがそのまま立体物でも可能になっていると考えて差し支えありません。
3Dスキャナー自体は上写真のようにハンディな機材ですが、中には測量機のような大きめの機材も存在し、なんと建物や街の一区画を丸ごと3Dデータ化してしまうことも可能です。いずれもメリットは「対象物を触らずにデータを生成出来ること」。近年はデジタルアーカイブをVRとして公開する事例も出ており、ますます3Dデータの活用は進んでいくことでしょう。
巻物
日本では古来より記録物として一般的だった巻物は、厳密に言えば専用のスキャナーがある訳ではありません。縦に短く、横に長大なケースが多いため、そうしたタイプの資料に対応しているアートスキャナーでデジタル化されるのが最適。「そのままスキャン」でも巻物類はアートスキャナーを使用することになっています。
製本図面(A2サイズ以上)
建築やデザイン業界ではない方にはイメージが難しいかも知れませんが、デジタルアーカイブ業界では製本された図面のデジタル化も大きな需要があります。
ネックとなるのは製本形式とサイズ。一口に「製本」と言っても
- ビス留め
- 固定
- 観音
などいくつかの種類に分けられ、また先述の書籍とは異なり、A2サイズ、A1サイズという大型の製本が出てくることも決して珍しくありません。それぞれ最適なスキャナーが異なるためデジタル化の際には注意が必要です。
書籍や絵画作品同様、製本図面にも専用スキャナーがあります。古書・貴重書の項でご紹介したオーバーヘッド型スキャナーがこれに該当しますが、対応サイズがA2やA1の見開きに対応しているというかなり大型のスキャナーです。
「分厚い書籍」で説明したように、資料に厚さがあるとページを大きく見開くことが出来ません。特に製本図面はこの点が顕著で、例えばビス留め製本の図面は一度解体して後述のシートフィード型スキャナーで1枚ずつスキャン、というパターンもあります。
しかし一部の製本図面専用スキャナーには「V字クレイドル」と呼ばれる機能が実装されており、図面を設置している原稿台が資料の形に合わせてV字に変形、負荷を掛けずにページの中央部分までスキャン出来るようになっています。この場合は解体せずに製本図面のデジタル化が可能です。
では、製本されていない図面はどのようにデジタル化するのでしょうか?
1枚ものの大判資料
製本図面専用スキャナーでのスキャニングも難しい図面や、戦前の大判地図をはじめとした貴重な大判資料は「シートフィード型」と呼ばれるスキャナーを使ってデジタル化します。
遠目に見るとキーボードのようなシートフィード型スキャナーですが、ちょうど平になっている部分が資料の“流し込み口”および“読み取り面”になっており、ここに大判資料を流すとスキャニング出来るようになっています(そのため製本図面は一度「解体」し、1ページずつバラした状態でデジタル化することになります)。
ところで『貴重資料なのに、流し込むようなタイプのスキャナーを使って破損しないのか?』という疑問を持った方もおられるかも知れません。この点はしっかり配慮されており、例えば「そのままスキャン」で使用しているドイツ製のシートフィード型スキャナーは資料を挟める透明なフィルターが付属しています。このフィルターで包んだ状態でスキャニングすれば、劣化した貴重な地図でも傷つく心配はありません。
が、やはり資料に大きく触れることは間違いないため、サイズが許されるなら先述のアートスキャナーでのデジタル化が最もダメージのリスクを抑えることが出来るでしょう。
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マイクロフィルム
マイクロフィルムとは、専用のカメラを使って資料を“縮小撮影”したフィルムのこと。耐久性が高く、100年以上の長期保存にも耐えられるとされているため、デジタル保存が登場する以前の戦後日本で広く普及していたフィルム資料です。
2023年現在、わざわざマイクロフィルムで資料を記録しようとする向きは極めて少なく、むしろ保存媒体として作成されたマイクロフィルムを更にデジタル化しようとする動きが出ています。保存に適しているフィルムではありますが、経年劣化は避けられず、マイクロフィルム特有のビネガー・シンドロームと呼ばれる変色が発生することもあります。
⇨【参考記事】マイクロフィルムってなに?劣化したらどうすればいいの?
マイクロフィルムにも専用スキャナーが存在し、PDFデータや画像にデジタル化することが出来ます。マイクロフィルムにも「アパチュアカード」「ロールフィルム」等の種類に分けられますが、スキャナーもそれぞれ専用の機材が製造・活用されています。ただしマイクロフィルムの場合はデジタル化出来る業者がかなり限られるため、注意が必要です。
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ガラス乾板
ガラス乾板(写真乾板)とは、無色透明の平らなガラス板に、写真感光材を塗布したものです。構造自体は写真フィルムとあまり変わらないのですが、その名の通りガラス板で出来ているため、フィルムよりも温度や湿度、経年劣化に強いというメリットがあり、行政や大学等では貴重資料をガラス乾板で保存してきた経緯があるため、知名度に比して数量の多い資料です。よって、デジタルアーカイブでもデジタル化のニーズが存在します。
ガラス乾板のデジタル化でも、専用のスキャナーが使われます。ただし注意しなければならないのが運搬時のリスク。ガラスのため、業者への依頼時や返却時の運搬中に破損する恐れが非常に高く、通常の資料よりも(デジタル化の費用というより運搬費用により)、高額になる可能性があります。しかしデジタル化出来れば中身の貴重な情報をデータとして活用出来ますので、ガラス乾板をお持ちの方は是非検討してみると良いでしょう。
貴重資料のデジタル化は機材が重要!
以上、デジタルアーカイブで発生する貴重資料のデジタル化について、それぞれの資料の注意点や事情と合わせて紹介しました。
「貴重資料」の定義は企業や団体によってまちまちであり、一般的には何の変哲もない機関紙のバックナンバーでも当団体にとっては大切な最重要記録だったりします。つまるところ重要なのは「いかに傷つけずデジタル化出来るかどうか」。そのためにどのような機材をどう使うのかがポイントになります。
そして貴重資料をデジタル化出来るのは博物館や美術館だけとは限りません。自社のデジタルアーカイブを作りたいと思っている企業・団体の方もぜひ、過去の貴重な発刊物やフィルム類のデジタル化に取り組んでみてください!