「記念誌」と聞いて、まず思い浮かぶものと言えば、学校の何十周年かの記念に発行される分厚い立派な本でしょうか。個人の喜寿や米寿の記念に作られる本も記念誌ですし、家族の歴史や系譜などをまとめた家族史も記念誌だと言えます。ほかにも、企業が作る社史やいろいろな団体が作る周年史(年史)も記念誌の類に入ります。
今回は、この記念誌を取り上げて、その意味や意義、作成するメリット、作成のフローなどについて説明したうえで、電子化についても言及します。
Table of Contents
記念誌とは?
まず、記念誌とはどういったものなのか説明します。
意味
「記念誌」とは、節目となる年や時代を迎えた時や出来事を記念して作成される書籍のことです。
この記念誌が発行されるようになったのは、日本では明治時代に入ってからです。明治5年(1872年)に学制や国立銀行条例が発布され、各地に学校や銀行が設立されたことがきっかけとなったようです。やがて大正時代に入るとそれぞれが創立〇〇周年を迎えることになり、その記念として「創立〇〇周年記念誌」といったものが発行されるようになったと言われています。
この記念誌の中には「社史」や「周年史」も含まれます。それぞれに、どういうところが出すのか、どういう目的で出すのかといった違いはありますが、明確に線引きすることができないために、ほとんどの場合、記念誌と見なされます。
参考のために、それぞれの特徴を以下に簡単にまとめておきます。
周年史(年史)
通常、「○○年史」とか「○○周年史」などと呼ばれるもので、学校や企業や市町村を問わずいろいろな団体が作ります。区切りのよい年に作られることが多く、歴史的な内容を記録することを目的としています。社史
企業または法人組織が作ります。○○周年に限らず、その企業や組織が歴史的な転換期を迎えた際に、例えば、株式上場を実現したりトップが交代したりした時などに、出されます。その企業や組織が自身の歴史を残すことを目的としています。
この社史には、創業前から現時点に至るまでのすべての歴史を年ごとに記録していく「正史(通史)」、ある一定のポイント、例えば50年史発行以降現時点に至るまでの〇〇年という区切られた期間における歴史を記録する「略史」、1年ごとにその歴史を記録していく「編年史」など、いろいろなパターンがあります。
記念誌
企業や団体に限らず、個人も作ります。結婚○○周年の記念に作ったり、何らかの受賞記念に作ったり、あるいは新築祝いに作ったりします。祝うという目的で作られるために、必ずしも歴史的な内容でなくても構いません。したがって、周年史や社史と比べて内容や構成ともに制約がなく、作り手の自由な発想で作成することができます。
どんなところが作るのか
上述したように、記念誌は、周年史や社史など、その種類によって作成者(発行者)が異なります。
- 周年史:学校、企業、法人組織(NPO法人や財団法人なども含む)、市町村団体など
- 記念誌:『周年誌』で挙げられた組織のほか、同好会、グループ、個人など
- 社史:企業、法人組織(NPO法人や財団法人なども含む)
重複するところもありますが、以上のような組織が主に作成しています。
どれくらいの数が作られているのか
現在、日本においてどのくらいの企業や団体がこういった記念誌を作成しているのか、その数を把握することは不可能ですが、記念誌専門の制作会社はほとんどのところが、制作実績として発注元を公開しています。大体「ほんの一例」として数十社の名前が上げられています。
また、学校が作る「創立〇〇周年記念誌」に関しては、現在、全国にある学校数が45,000校だと考えると、大体の需要が見えてきますね。この数には幼稚園は入っていませんが、幼稚園も含めるとその数は58,500校に昇ります。
意義
では、こういった記念誌を作る意義は何なのでしょう。ここでは、社史や周年史といった、企業や団体が作る記念誌に制限して説明します。
記念誌を作る第一の意義は、その企業や団体の歴史や功績を後世に残し、世に知らしめすということでしょう。それによって、その企業や団体の存在価値も見えてきます。またそういった過去の歴史や功績を知ることは、その企業や団体の未来へも貢献することになります。
作るメリットとは?
意義とは別に、記念誌を作ることでどのようなメリットを得ることができるのでしょう。ここではそのメリットについて、社内的視点と社外的視点の両方から具体的に説明します。
社内的メリット
社内的には、モチベーションの向上から業務効率化まで様々なメリットが挙げられます。
今後の経営や業務改善に役立つ
過去の経営や業務の実態と成果や業績を知り、それを教訓や手本にして今後の企業運営の見直しをすることで、経営力を強化したり業務の品質向上を促進することができます。
社員教育に効果をなす
記念誌、ことに社史は、創業以来培ってきたその企業独自のノウハウをまとめ上げたもの、いわば集大成であると言えます。これは、社員、ことに新入社員や若手社員が自分の会社のことを学ぶためのよいツールとなります。それによって、社員は、会社に関する認識を新たにしたり、その会社の社員であるという自覚を高めたりすることができます。
企業全体の活性化につながる
創業者をはじめ、過去にその企業を牽引してきた先達者たちの功績、また企業理念や経営方針を社員全員が理解することによって、社内に一体感をもたらし業務の活性化を引き起こします。同時に、そういった先達者たちの努力があって今があるということに対する感謝の思いも業務に対してよい影響を与えると考えられます。
情報の整理や分類を行うことができる
社史や周年史を作成することで、いろいろな部署に散在している資料や情報を収集し、整理し、分類することができるために、充実したコンテンツの情報を効率的に次世代へ引き継いでいくことが可能になります。
節目に対する自覚と責任を促すことができる
ことに周年史などの場合は、○○周年という節目に対して、社員がそれぞれにその意義を考え、自分の立ち位置を見据えて、それまでの業務を顧みたり今後の抱負などを考えたりするよい機会となります。
社外的メリット
社外においても、PR面などで大きなメリットが存在します。
企業のイメージアップや宣伝の効果がある
企業の理念だけでなく、創業時以降どのように発展してきたのかその過程やどのような活動をしてきたのかその内容を知ってもらうことは、その企業のイメージアップにつながるだけでなく、宣伝効果も発揮します。
社会貢献につながる
社史を商工会議所や図書館などに贈呈することで、その企業の経営史、産業史、技術史などの貴重な資料を提供して社会的な貢献を果たすことができます。
記念誌を作る流れ
では、記念誌というものは、どのような工程を経て作られるのでしょう。一般的な書籍、例えば小説などは企画から製本されるまで数か月くらいかかるようですが、この記念誌はどうなのでしょう。
実は、記念誌の場合は、もっと長い期間を要します。通常は、1年から3年くらいをかけて作成されるという、長期プロジェクトになります。
以下では、記念誌のうちの社史を作成する流れについて、各工程ごとに説明していきます。
1. 準備
何事にも準備期間というものが必要です。社史づくりのこの「準備」という工程では、まず社内で社史づくりの編集委員会のようなものを立ち上げ、責任者を決めます。責任者には企業の歴史や先達者などに詳しい人物を選びます。また編集委員たちも、自社に誇りをもち、自社のことを人に伝えるのが得意だったり好きだったりする人物を選ぶとよいでしょう。
次に必要なことは、編集委員会全員が、「何のために社史を作るのか」を明確に理解しておくことです。この認識がないと、上記の社史を「作るメリット」が提供される質の高い社史はできません。またどういう人たちに読んでもらうのかもこの時点で把握しておかねばなりません。
ほかにも、すべて外注に委託するのか、それとも社内である程度まで制作するのかを決めます。後者の場合は、どの工程を社内で担当しどの工程を外注に委託するのかを検討します。どういった体裁にするのか、構成はどのようにするのか、紙ベースの書籍だけにするのか、電子化も併せて行うのか、なども検討します。
参考のために一般的な構成を下記に示します。
前付
まえがき、代表者挨拶、目次、祝辞、監修の言葉、凡例など
口絵
企業のイメージ写真、歴史を物語る写真、現状の写真、各事業所の写真、サービスや製品の写真など
本文
企業の足跡(企業史、歴代の社長などの人物史、経営史、その他)、テーマ別足跡、部門や事業所別足跡など
資料編
社内資料、業界資料、年表など
後付
あとがき、索引、奥付など
この時点で、配布先もおよそでいいので決めて、そこから発行数を割り出し、大体の予算を把握しておきます。
ここで制作会社の選定も行います。見積りなどをとって決めるのもよいですし、実績を見て、自分たちのイメージにあった社史を作成しているところを選ぶのもよいでしょう。
最後に、スケジュールを作成します。いつ発行するかを決めて、それから逆算し、どういったスケジュールでそれぞれの工程を動かしていくかを決めます。
いずれも、社史編纂室などがある企業の場合は、社史や周年史作成に慣れた担当者がいるはずですので、その人を中心に準備を進めていくとよいでしょう。そういった担当者や社史編纂に慣れた社員がいない場合は、社史専門の制作会社に相談しながら進めるのが安心です。
2. 企画
この「企画」という工程では、上記の準備段階で決めた事項にもとづいて、大まかな企画を立てて、企画書を作成していきます。まず、準備の段階で決めた構成に沿ってコンテンツを検討します。
参考のために定番と呼ばれるコンテンツを上げておきます。
- 代表者の挨拶や祝辞
- 商品やサービス
- 開発秘話や転換期などに起こった出来事
- 対談による企業の歴史のふり返り
- 社員からのメッセージ
- 写真
- 年表
大体のコンテンツが決まったら、下記のような台割を作成します(※画像はイメージです)。
3. 資料収集
企画が立ち上がったら、それに応じて、社史に盛り込む情報や写真の収集をはじめます。この場合、過去に社史や○○周年史などが発行されていればそれを参考に、もしなければ他社のものを参考にどんな資料が必要かを見極めていきます。それだけでは不安な場合は、パートナーとなる制作会社に相談しながら進めることもできます。
資料は、社内報、新聞や雑誌などの掲載記事、営業報告書などのほかに、写真も含めてできるだけ多くのものを収集します。
4. 取材・撮影
次に、取材を行いますが、まず、それに先立って、取材する人物のリストを作成しておくとよいでしょう。社長や、その企業の事情を古くから知っている人、OBなど、何名くらいに話を聞くかを前もって決めておきます。社史のボリュームによって異なってきますが、5名から20名で考えておくとよいでしょう。インタビュー形式にするのが難しければ、手記を書いてもらうのも一案です。
誰に取材するかが決まったら、早速アポイントメントをとって、取材へ出かけます。取材は、レコーダーなどで録音をしながら行いますが、大事なポイントに関してはしっかりとメモをとることも大切です。
取材の時間ですが、1時間半から2時間くらいは見ておきたいものです。話しだすと、あれもこれもとどうしても長くなってしまうものですが、その中から楽しいエピソードなどを聞けることも多々あります。この時、写真撮影も忘れずに行います。
また手記にする場合は、原稿の締め切りに関して配慮をする必要があります。遅れて提出される場合も多いので、その時のために、余裕を持たせた納期を設定することをお勧めします。
5. 執筆
取材内容や手記も含めて、執筆はプロのライターにお願いします。制作会社がライターを抱えている場合もあれば、外注のライターに任せる場合もあります。
この執筆にかかる期間ですが、ボリュームにもよりますが、大体3か月から半年くらいを目安にスケジュールを立てます。
6. デザインワーク
原稿が上がってきたら、制作会社の担当者とデザイナーも交えて、字詰めや行数、フォントの指定、どこにどういった写真を挿入するかといった紙面のデザインから、表紙のデザインに至るまで、綿密に打ち合わせをします。装丁に関してもこの時点で話し合って決めます。
7. 入校・組版・ゲラづくり
デザインワークが終わったら次は入稿です。入稿とは、原稿を印刷所へ渡すことを言います。印刷所では、入稿された原稿をベースに組版を行います。
組版によって、単なる文字データだった原稿が実際の本のページとなって印刷されます。組版とは、DTP(デスクトップパブリッシング)という、パーソナルコンピューターを使って文字の割り振りやレイアウトなどを行う作業のことです。印刷所では、この組版によって、「ゲラ」というものが刷られます。「ゲラ」とは、一言で言うと試し刷りのことです。実際のレイアウトに合わせて原稿の文字を組んで印刷されたもの、いわばサンプル本のようなものです。
8. 校正
校正は、慣れない作業ということもあるので、誤字脱字などの誤植や、写真の挿入位置、デザインの乱れなどがないかどうか、手分けをして何重にも綿密に行います。製本された後で間違いが見つからないように、念には念を入れてチェックすることが大切です。
9. 再校~責了
最初の校正(初校)で指摘した間違いが直っているかどうか、再び手分けをして入念にチェックをします。この時に間違いが見つかったら、再度赤で指摘して再入校します。
制作会社によって異なりますが、再校によって二校、三校と刷られる場合もあれば、二校までとし、その後の校正は制作会社の責任によって行うという「責了」にする場合もあります。
10. 印刷
校了(校正終了)となった原稿は、再び印刷所へ入稿されます。これを再入稿と言います。印刷所では、この原稿を元に製版を行い印刷機のセッティングを行って印刷作業を開始します。表紙やカバーなども印刷されます。
11. 製本~納品
印刷所で刷り上がった、「刷本(すりほん)」と呼ばれる用紙、表紙、カバーなどは、次に製本所へ回されます。製本所では、折り機や丁合機(ちょうあいき)、綴じ機、表紙付け機、裁断機などを使い、書籍の仕様に沿って製本作業を行います。
最後にカバーがつけられて、社史が完成して、企業へ納品されます。印刷から納品までの期間は、大体1か月から2か月を見ておくとよいでしょう。
記念誌の電子化
近年、データの電子化が普及するにしたがって、既刊の記念誌の内容をデジタルデータに変換、つまり電子書籍という形態でコンパクトディスク(CD)などの記憶媒体に記録して保管するところが増えてきました。それだけでなく、新しく作成する記念誌も同様に電子化で作成し、関係者へもそのコンテンツを収めたCDを配布(贈呈)するという傾向が見られるようになっています。
しかし、やはり贈呈は書籍の形がいい、ということであれば、記念誌を紙ベースの書籍と電子書籍の両方で作ることも可能です。
以下では、このように記念誌などを電子化することで得られるメリットについて説明します。
電子化のメリットとは?
電子化すると、分厚い紙の書籍故に難しかったことが可能となります。
社内で共有しやすくなる
記念誌の中でもことに社史はどれもボリュームがあってかなり分厚い本になるために、閲覧の必要が生じた場合、持ち運ぶのに苦労します。しかしこれを電子化すれば、現物はなくても、各自のパソコンを立ち上げるだけでそのコンテンツを共有することが可能になります。さらにタブレットがあれば、どこにいても閲覧することができます。
劣化の心配がない
紙ベースの書籍だと、経年の黄ばみや劣化は避けることができません。しかし電子書籍にすれば、そういった劣化や損傷の心配もなく、そのままの形で残すことができます。
必要な個所が見つけやすい
紙ベースの書籍だと、どこに何が書いてあったのか、すぐに見つけ出すことができません。1ページ1ページをめくって目視チェックする必要があります。しかし電子化されたデータは、検索機能を使うことで必要な個所を瞬時で見つけることが可能になります。
後々の編集が可能になる
紙ベースの書籍は、一旦製本されると部分的な編集や修正など、手を加えることはできません。しかし電子化されたデータは、いつでも加工が可能であるために、次世代の社史編纂や次の節目の周年史編纂の際に、一からはじめることなく、既存のデータを添削することで容易に新しいバージョンを作ることができます。これによって、制作にかかるコストと時間や労力の削減が可能になります。
以上のようなメリットを考えて、紙ベースの記念誌と一緒に、電子書籍の記念誌を作成しておかれることをお勧めします。その際に気をつけることは、データの電子化も行ってくれる専門業者を選ぶということです。また、既刊の古い記念誌をデータ化する場合、手元にある原本を裁断しなければならないのかどうかも確認する必要があります。
そのままスキャンでも、記念誌の電子化の実績を持っています。そのままスキャンの場合、非破壊スキャナーを使用しているために、原本を裁断せずに電子化をすることができます。
会社の財産を有効活用しよう
企業が発行する社史や周年史などのような記念誌は、1,000ページを超えるものも少なくなく、出し入れするだけでも大変だということで、本棚に入れたまま開きもしないという人も多いのではないでしょうか。
このような宝の持ち腐れを防ぐためにも、記念誌を作るときに電子化も同時に行っておけば、分厚い現物を手にしなくとも、社内に限らすどこにおいても、閲覧が可能になります。つまり、いつも社史や周年史を携帯しているということになります。企業の財産とも言える社史や周年史、大いに有効活用したいものです。